某月・満月の日 たまき:ふあ〜、つかれた〜! 瑠璃果:疲れましたね。 海に腿までつかって一日中歩き回ってましたから。 たまき:瑠璃果ちゃん、今日はごめんね。 潮干狩りなんかにつきあってもらっちゃって。 大潮の日で干潮の時間がちょうどよくて、 それでお天気がよくて予定があいている日って案外なくってね。 急に思い立って誘っちゃったの。 瑠璃果:そんな、逆に私のほうからお礼を言いたいくらいです。 今日一日とっても楽しい時間をすごさせていただきました。 またいつでも誘ってくださいね。 たまき:えへへ。 瑠璃果:本気ですなんですからね。 降り注ぐ陽光の中、ハマグリを足で探しながら先輩と二人きりですごしたあの時間は、 瑠璃果の大事な大事な宝物です。 貝、いっぱい取れてよかったですね。 たまき:うん。大漁だった。 今回は瑠璃果ちゃんのおかげで大きめのがいっぱい取れたよ。 いつもはもうちょっと小ぶりなのか、5〜6個くらいしか取れないか、 そんなもんだもん。 瑠璃果ちゃん、貝探しの才能あるんじゃないの? 瑠璃果:そういう才能があるのかどうかはわかりませんけど・・・ わたし、ちょっと深めのところで、すっごく大きなハマグリ見つけたんですよ。 足にゴツッと当たって、大きいから石かと思ったんですけど、 掘ってみたら幅30センチくらいの、こぉんな大きなハマグリで。 たまき:うそぉ。 それどうしたの? 瑠璃果:持ち上げて、それが石じゃなくて貝だとわかった瞬間、 なんだか得体の知れないものを拾っちゃった気がして、 気持ち悪くなってうわぁってほうり投げちゃったんですよ。 一種の巨大生物っていうかバケモノっていうか・・・ あのあたりって原発とかありましたっけ? たまき:ないよ。 ・・・たとえあっても周りの生き物は巨大化しないから。普通。 瑠璃果:なんだったんでしょう。 ヌシみたいなものかなぁ。 たまき:蜃気楼って知ってるよね。 瑠璃果:なんですか、突然・・・ 水平線の向こうの景色がぼんやりのように見えたり 砂漠にありもしないオアシスが見えたりする、あれですか? 大気が光を曲げて見せる、珍しい気象現象ですよね。 たまき:そうそう。 それでね、その蜃気楼の「蜃」ってのは、大ハマグリのことなの。 紅蘭が教えてくれたんだけど、昔中国では、 蜃気楼というのは大きなハマグリが出す気が見せる マボロシだと思われていたんだって。 瑠璃果:・・・そうなんですか。 それって迷信なんでしょうけど、 そういう魔力を持ってたとしてもおかしくないって気もします、 実際にあんな巨大ハマグリを見ちゃうと。 たまき:でもそれ、浜辺で網焼きするのもワイルドで面白かったかも〜。 惜しいことをしたかもね。 瑠璃果:意外とチャレンジャーですね。 きっと、一抱えもある貝の身ってグロいですよ? たまき:なんか、おなかすいてきちゃった。 さっき買ったお弁当食べようか。 瑠璃果:駅弁ですね。 先輩はどんなの買ったんですか? たまき:こんなの。北海手綱弁当っていうの。 瑠璃果ちゃんは? 瑠璃果:かにめしです。 あ〜、2人して海っぽいもの買っちゃいましたね。 たまき:食べようか。(ガサガサ) うわぁ、おいしそう! いただきま〜す。
瑠璃果:おいしかった〜。ごちそう様でしたっと。 たまき:ねえ、瑠璃果ちゃん。 その包み紙の裏、何か書いてあるよ。 瑠璃果:そうですか? (ガサガサ)えと、「アタリ!」? なんだこれ。 (ずんちゃっちゃっちゃ) 弁当屋:♪こんにちはー、こんにちはー、こんにちは〜、ジャパーンのみなさ〜ん♪ 運命に導かれたナージャは日本にやってまいりました! 瑠璃果:なんだ!? たまき:うわあ!びっくりした! 弁当屋:イエーイ!おめでとうございま〜す!カランカラ〜ン! 掛紙にアタリの出たお客様には、もれなく日本縦断駅弁の旅をプレゼントです! 瑠璃果:日本縦断? 弁当屋:はい! 「日本縦断駅弁の旅」です! 瑠璃果:日本縦断の旅をプレゼントですって。 たまき:やった、瑠璃果ちゃんよかったねぇ。すごいねぇ。 JTBの旅行券とかがもらえるの?それともJRの周遊券セットとか・・・ 弁当屋:いえいえ、全国の名物駅弁を北のモノから順に食べてもらって、 ”この場で”全国縦断の”気分”を味わっていただくという企画です。 瑠璃果:え゛〜〜〜っ! ・・・なぁんだ、つまんないの。 弁当屋:一種のヴァーチャルリアリティだと思ってください。 瑠璃果:思わない。 弁当屋:では、さっそく始めましょう。 (ずんちゃっちゃっちゃ) ♪ハロー、ハロー、こんにちは〜、北海道のみなさ〜ん♪ というわけで、北海道は函館本線、森駅の駅弁 ”いかめし”ですっ!はいどうぞ! たまき:お持ち帰りじゃなくて、ここで順番に食べるの? 日本縦断て言ってたけど、全部でいったい何食あるのよう。 弁当屋:8食です。 では張り切ってまいりましょう! さあ〜めしあがれ! 瑠璃果:あの、お弁当は今さっき一個食べたところなんだけど〜。 弁当屋:なせばなります。 勇気でおぎなうのです。 瑠璃果:う〜ん・・・。このいかめしってあんまり量ないし、 これだけなら・・・まぁ食べて食べれないこともないけど。 ・・・なんだか、ありがた迷惑な企画だなぁ。
(ずんちゃっちゃっちゃ) 弁当屋:♪ハロー、ハロー、こんにちは〜、岩手の皆さん〜♪ 南に下って参りまして、おつぎは岩手県は宮古駅のいちご弁当です。 瑠璃果:まだ「いかめし」を食べ始めたばかりだってぇの! たまき:・・・宮古、駅? 弁当屋:そうです。ここは浄土ヶ浜がとってもきれいなところですよ。 たまき:宮古・・・・ 弁当屋:あ、もしかしてこのお弁当、こっちのお姉さんがお食べになりますか? ちなみにいちご弁当の「いちご」は、甘くて酸っぱいストロベリーのことじゃなくって、 この地方で言う「ウニ」のことです。 はいどうぞ! たまき:わたしが食べていいの? じゃあおいしそうだし、いただいちゃおうかな。 瑠璃果ちゃん、いい? 瑠璃果:おねがいしまふ〜。
弁当屋:そうこうしているうちに、こちらのアタリを出した眼鏡のお姉さんは いかめしを食べ終わりましたね。 瑠璃果:これ、おいしかった〜。 ご飯にイカの味が染みてて。 あともち米が・・・・・・ (ずんちゃっちゃっちゃ) 弁当屋:♪ハロー、ハロー、こんにちは〜、山形のみなさ〜ん♪ ではお次、山形は奥羽本線の米沢駅名物 「牛肉どまんなか」をどうぞ。 瑠璃果:ちょ、ちょっと待ってよ。 もう無理!私もう食べられない! 弁当屋:まだ全国縦断は始まったばかりなのに。 眼鏡のお姉さん、まだまだこれからですよ。 瑠璃果:ぎゃあああ! たまき:いちご弁当、おいしかった〜。 弁当屋:おかっぱのお姉さんは食べるの早いですね。 ではお次は群馬県は高崎駅のだるま弁当をどうぞ。 (ずんちゃっちゃっちゃ) ♪ハロー、ハロー、こんにちは〜、群馬の皆さん〜♪ たまき:このお弁当のいれもの、だるまの形をしているよ。 すごいねぇ。 中身は山菜とかの、山の幸系だね。
瑠璃果:だるま弁当まで? 先輩、まだ食べるんですか? たまき:うん。 瑠璃果:そ、そんなあ〜! だって先輩、最初の北海手綱をいれると、駅弁3個目ですよ!? たまき:やっぱりちょっとカロリーの取りすぎかなぁ。 でも今日はいっぱい動いたし、ちょっとくらいはいいよね。 じゃあいただきまぁす。(ぱくぱく) 瑠璃果:・・・・(ポカ〜〜ン) す、すごぉおい。 先輩、フードファイターみたいです。 よし!お弁当屋さん、さっきの「牛肉どまんなか」っての、私にちょうだい! 弁当屋:おっ、やっとその気になりましたね。 はいどうぞ。 瑠璃果:先輩を慕い、そして目標とする瑠璃果としては、 ここは一歩も引けません!ついて行くのみなのです! では、いただきまあす!(ぱくぱく) 弁当屋:二人ともがんばってくださいね。 お茶が欲しかったら言って下さい。 ・・・紅茶ですけど。 瑠璃果:はぐはぐ・・・ぎゅ、牛肉に溺れそう・・・ たまき:(ペロリ)だるま弁当、完食ぅ〜。 弁当屋:うわぁ、はやっ! おかっぱのお姉さんたら、うっとりするような食べっぷりですね。 (ずんちゃっちゃっちゃ) ♪ハロー、ハロー、静岡の皆さん〜♪ お次は静岡県は浜松・掛川駅の「ひつまぶし」です。 「暇つぶし」じゃないですよ〜。 たまき:うなぎご飯だ。 じゃあいただきま〜す。 瑠璃果:・・・まだ食べるんですか? もう4個目だというのに、ニコニコしながらおいしそうに駅弁をかきこむそのお姿、 まぶしくて瑠璃果はクラクラしそうです! ああ!やっぱり寺月先輩は私なんかとは、全てにおいてレベルが違いすぎます! でも・・・でも・・・、例え足元にも及ばなくとも、瑠璃果は先輩について行きたい! いえ、ついて行ってみせます! んぐ、はぐはぐはぐはぐはぐはぐ・・・・うぐぐぐ・・・・ ハイッ!牛肉どまんなか、完食! ・・・うぷっ。 弁当屋:眼鏡のお姉さん、がんばりましたね。 瑠璃果:はひぃ、はひぃ・・・も、もう限界・・・・ (ずんちゃっちゃっちゃ) 弁当屋:♪ハロー、ハロー・・・ 瑠璃果:ひっ! ひぎゃあああああ〜〜〜っ! もうダメ、その音楽やめて〜!! 弁当屋:♪・・・こんにちは〜、神戸のみなさん〜♪ お次は、兵庫は新神戸駅・西明石駅・神戸駅の「ひっぱりだこ飯」です。 このあたりの名物のタコを使った人気の駅弁ですよお。 しかぁし、 OH、アノ”オクトパス”ヲ食ベルナンテ、ナージャ理解デキマセーン。 と言うわけで、わたしの独断でこれは食べなくてもいいです。 瑠璃果:うう、そうなの? よかった・・・ たまき:ハイ、「ひつまぶし」完食ぅ。 瑠璃果ちゃん、それ食べないの? じゃあその「ひっぱりだこ飯」もわたしがもらうよ。 瑠璃果:ええっ!? 弁当屋:あなたには「タコの壷味ちゃん」のあだ名を与えましょう。 たまき:そんな名前別に欲しくないけど・・・。意味わかんないし。(笑) どれどれ・・・へえ〜「ひっぱりだこ飯」おいしそうじゃん。 いただきま〜す。 瑠璃果:うそぉ〜〜。5個目ですよ? たまき:別腹、別腹。 瑠璃果:な、なるほど! さすが先輩です!!(おい)
弁当屋:さあ、北海道から始まったこの旅も、 神戸を過ぎ、中国地方もそのまま通り過ぎ、 いよいよ下関へとやってまいりました。 みなさん、全国縦断の旅気分を満喫されてますか!? 瑠璃果:そんな余裕ないよぉ〜。・・・ううう〜〜 弁当屋:そうですか。 さて下関名物といえばフグ! ご当地では「ふく」というそうです。 (ずんちゃっちゃっちゃ) ♪ハロー、ハロー、こんにちは〜、山口の皆さん〜♪ というわけで、下関駅・新下関駅の「デラックスふく寿司」です。 なにからなにまで”ふくづくし”ですよお! 瑠璃果:あ、容器がキモかわいい。
弁当屋:「デラックスふく寿司」召し上がりますか? どうぞどうぞ! 瑠璃果:ム、ムリ。すでに満タン。容量オーバー。 ねえ、どうしてもお持ち帰りしちゃダメなの? 弁当屋:こちらにもいろいろ都合がございまして・・・ 瑠璃果:どうして・・・ ま、まさか賞味期限を過ぎているとか? ええと、製造年月日は・・・・・ ああ、ちゃんと今朝製造なんだ。 じゃあなんで? 弁当屋:あなたはまだ2個しか召し上がってませんね。 本当はあなたに全部召し上がっていただこうと思っていたのに。 瑠璃果:わたしがアタリを引いたから? でもそんなの無理だよ。 お弁当なんて、食べられてもせいぜい2つくらいまでだって。 弁当屋:そうなんですか・・・・ 瑠璃果:そうなんですか・・・・って、そんなの当たり前じゃない! たまき:うにゃあ〜〜! ひっぱりだこ飯、完食ゥ〜〜! 弁当屋:そういうことなら、このふく寿司と、最後のお弁当もこちらのお姉さんに 食べていただくことにしましょう。 (ずんちゃっちゃっちゃ) ♪ハロー、ハロー、こんにちは〜、熊本の皆さん〜♪ 旅のおしまいの熊本は人吉駅の「栗めし」です。 どうぞ食べてくださぁ〜い。 たまき:いただきマース。(バクバクバクバク) 瑠璃果:ろ、6個目ですよ・・・・・・・? たまき:(バクバクバクバク)ウマー!
瑠璃果:なんて見事な食べっぷりでしょう。 今日は先輩の意外な一面が見られて、瑠璃果は胸いっぱいです。 おなかもいっぱいですけど・・・・・・ たまき:(バクバクバクバク) 瑠璃果:・・・あれ、どうしたんですか先輩、なんか変ですよ。 いつもと違う。 たまき:なにがぁ〜?(バクバクバクバク) 瑠璃果:・・・あっ! まさか・・・・寺月先輩じゃない!? 顔も声もそっくりだけど、違うの!? あなた、いったい誰なの!? わたしはだまされないわよ! たまき:・・・・・・・・・・てへ〜。バレた? 弁当屋:騙されないわよって、ずっと騙されてたじゃないですか。 瑠璃果:へ?なに?あなたの差し金なの? これってどういうことよ。 この先輩、本当にニセモノの先輩なの? あなたが・・・造ったの? 弁当屋:そうですよ。 見かけは本物と寸分たがわないのですが、でもニセモノです。 瑠璃果:うそ〜! すご〜い。本物そっくり・・・。 ちょっと、あなた! どういうつもり?よりによって憧れの寺月先輩の偽者を作るなんて! わっ!・・・わたしにちょうだいよ!!(おい) 弁当屋:ダメです。 さしあげたりできるものではありません。 でも、なんでニセモノだってわかったんですか? 瑠璃果:だって、本物の先輩は箸の持ち方は正しく完璧だし、 迷い箸なんかしないもの。 でもこのニセ先輩の持ち方、ちょっと変。 弁当屋:ああ、そこで気がつきましたか。 てっきり大喰らい過ぎるのがバレた原因かと思ってました。 人間て小食なんですね。 瑠璃果:たとえ先輩が「桁外れの大喰らい」だろうが「マトリクスの監視プログラム」だろうが 「這い寄る混沌」だろうが「遊星からの物体X」だろうが、 ああ、先輩にはそういうところもあるんだ〜って、 どんな先輩でも受け入れて、わたしは黙ってついていくだけ。 でも、先輩がいつもやっていることと違うことをする、 つまり箸の持ち方が普段と違うっていうのは、これはおかしいもん。 それより、これってどういうことなのか説明してちょうだい。 弁当屋:わたしはただ、あなたに喜んでもらおうと思っただけなんです。 でも、どんなことをしたらあなたが喜んでくれるのかよくわからなくて、 そこで一番手っ取り早い方法として、食欲を満たすのがいいんじゃないかなって思って、 それで全国縦断駅弁ツアーを思いたったのです。 われながらいいアイディアだと思ったのですが、 どうも評判は芳しくなかったようで・・・ 瑠璃果:・・・クチビル、柔らかいんですね。 偽たま:やん♪瑠璃果ちゃんそこくすぐったいよう〜。 瑠璃果:きゃうう〜ン、萌えぇ〜! じゃあ、じゃあ、 こんなことしてみても・・・いいですか? 偽たま:ええ〜っ。・・・はずかしぃよう。 弁当屋:ちょっとそこ! 自分から質問したんだから、ちゃんと人の話を聞きなさい! っていうか、そっち方面に話を持っていっちゃだめ!! そこから降りなさい! 瑠璃果:だって、先輩にこんなことできるチャンス、 めったにないんだも〜ん。ぷにぷに 弁当屋:キャー!だいたい女同士でなにやってるんですか!? 瑠璃果:・・・変だと思う? でも私は、・・・この人が好きなの。 そりゃ社会の常識からすれば、私の嗜好は変わっているかもしれない。 それでも、私は自分の気持ちに正直でいたい。 先輩を慕う気持ちに背を向けて生きたくないのよ。 だから、そっとしておいて。 弁当屋:だって、あなたが好きなのは、本物のそのお姉さんなんでしょう? それは私が造った偽者なんです。 似ていても、あなたが好きな人とは違うんですよ。 それなのに・・・ いいんですか、偽者でも! 瑠璃果:・・・・・いいときもある。(笑) 弁当屋:もう! とにかくダメです。ニセモノさんデリート! 偽たま:瑠璃果ちゃん、ばいば〜い!(シュルルン・・・) 瑠璃果:ああ〜〜〜、もったいない! 消しちゃうくらいならちょうだいよお。 弁当屋:いいですか、 あれはわたしがあなたに見せた幻なんです。 この電車も、食べたお弁当も、この私自身も幻です。 だからお弁当もなにもかも、持ち帰ることが出来ないんですよ。 瑠璃果:そうなの? 本当にヴァーチャルリアリティだったんだ。(笑) ・・・えっと、どこから? 先輩と二人きりで潮干狩りに行ったのも幻だったの? 弁当屋:いえいえ、それは現実です。 あなたは今、その潮干狩りの帰りの電車の中で、 この幻を見ているんです。 瑠璃果:あそこまでは本当のことだったんだ。 ・・・よかった。 あの思い出が幻じゃなくって・・・ 弁当屋:コホン。 ところで、このように自在に幻を操るわたしが何者なのか、 全然聞いてきませんけれど、気になりませんか? 瑠璃果:そういえばニセモノ先輩に気を取られてすっかり忘れてた。 あなたは何者なの? 弁当屋:・・・わたしは、 あのとき助けでいただいた大きなハマグリの精でございます。 弁当屋:本来ならば囚われの身となり、文字通り煮るなり焼くなり好きにされるところを、 優しいお心をもったあなたは逃がしてくだすった。 そのせめてものお礼をさせていただこうと、こうして参ったのです。 瑠璃果:ああ、あれは別にそういうつもりでは・・・ 弁当屋:・・・・は? 瑠璃果:ナ、ナンデモナイデス! そうかぁ。大ハマグリが幻を見せるって、本当のことだったんだ。 あのとき、「このハマグリはタダモンじゃない!」とは思ったけど、 まさかこんなことができる力を持っていたとは・・・ 弁当屋:・・・なんか照れますね。 私にとってはこのくらいは朝飯前なんですよ。 瑠璃果:すごいなぁ。いいなあ、そのスキル。 だったらさ、もし、仮にね、仮になんだけど、 あなたをつかまえて網焼きとかにして食べちゃってたらどうなってたんだろう。 もしかしたら、その神通力が身について、 幻を自在に操れるようになったりしちゃったり・・・・ 弁当屋:なったりしませんよ〜。いやですね〜。 瑠璃果:しないのか。 ・・・ちぇっ。 弁当屋:そのかわり、一生のあいだ死ぬほど恐ろしい幻に悩まされますよ。 つまり祟られるわけです。 今あなたが経験しているような、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚に訴えるリアルな幻です。 「死ぬほど恐ろしい体験」とともに、「体が引き裂かれるような痛み」などもリアルに伴います。 でもね、うふふふ、幻だから ゼ ッ タ イ 死 ね な い ん で す よ 〜 。 ・・・・・・あれ? あの〜、 今の質問、どういうことでしょう。 まさかとは思いますけど、「もし身につくなら私を食べときゃよかったな」とか おもったんですか? 瑠璃果:そっそっ、そんな滅相もございません。 やだなぁもう旦那ったら〜。 弁当屋:そぉですよねぇ。 うふふふふ。 瑠璃果:さ〜て〜と〜、・・・そろそろ現実の世界に帰して欲しいんですけど〜。 ハマグリさんのお礼の気持ちは充分すぎるくらい受け取りましたから。 弁当屋:えっ?もういいんですか?なんと無欲なかた。 お引き留めしたい気持ちもないではありませんけれど、 ・・・わかりました。 ではこれでお別れです。 では、目をとじてください。 瑠璃果:うん。 弁当屋:では、私が「ワン・ツー・スリー!」と言って手を叩いたら、 スッキリ気持ちよく目覚めます。 瑠璃果:・・・それって。(笑) 弁当屋:では、 ・・・ワン・ツー・スリー!(パン!) 瑠璃果:・・・はっ! たまき:・・・ん? おはよう、瑠璃果ちゃん。 電車に乗ってるあいだ、ず〜っと寝ていたね。 やっぱ疲れた? 瑠璃果:あっ、わたし先輩に寄りかかって寝てたんですか? すみません。 たまき:いいんだよう。 ん〜、肩に心地よい重みっていうのかなぁ。 悪い感じゃなかったよ。 それより見てよ、これ! すごいでしょう。 あとで食べようね。 瑠璃果:なんですか? 瑠璃果:ぎゃああああっ! 大ハマグリじゃないですか! どうしたんですかこれ! たまき:売ってたから買ったんだけど・・・・ 瑠璃果:大ハマグリは食べちゃダメです!一生祟られます! こいつはそれは恐ろしい力を持っていて、 自在に幻を操り、人心を惑わせ、 その上、偽の先輩を出してあんなことやこんなこともできるんです! たまき:・・・あんなことやこんなこと? ちょっと、落ち着いてよう。 これは本物じゃないんだよ。 瑠璃果:ま、幻ですか? たまき:寝ぼけてないでよく見れ〜。
瑠璃果:ハマグリ丼? なんですかこれ。 たまき:車内販売で売ってた駅弁だよう。 いれものが可愛いからつい買っちゃった。 瑠璃果:・・・でも、よかった。本物の大ハマグリじゃなくって。 たまき:こういう面白い駅弁も旅のいい思い出になるよね〜。 また来ようね。 瑠璃果:ハイ、よろこんで! |
2003年6月17日 21:55:49