今回はちょっと意外なところで「崖の上のポニョ」です。
公開直後くらいに見に行ってきたんですが、手描きによるアニメーションとしての見所は多く、
IGの「人狼【JIN-ROH】」とはまた違うベクトルの魅力の、ぷりぷりとした動きに面白さのある良作でした。
しかしながら一方で、“登場人物が誰も怖がっていないホラー映画”というか、
“登場人物が誰も緊迫感を感じていないパニック映画”というか、
見ていてとても不安な気持ちになる映画でもありました。

自分達の住んでいた町が完全に水没するという大惨事。
月の異常接近で人工衛星は落下し、ライフラインも通信網も壊滅。
さらには、水中にデボン紀の巨大怪生物が群れで遊弋するという異常事態。
にもかかわらず、水没後の世界は美しく牧歌的なタッチで描かれ、災害による悲惨さは微塵も感じさせません。
着の身着のまま小船で避難している夫婦は、その状況で、
赤ちゃんを抱いて日傘などさして、「大変なことになったわねぇ」「君の舟はいい舟だねぇ」となぜかピクニック気分。
あとで登場する避難民もニコニコと妙に元気で、避難先の山の上のホテル目指して船団を組んだりしています。
宮崎駿は「困難な状況に負けない人間の強さ」みたいなものを描写したかったのかもしれませんが、
昨今のニュースで取り上げられる実際の災害被害者のみなさんの強さと、それははまったく違う種類のもので、
登場人物たちのそのリアクションには狂気すら感じます。

その危機的状況において登場人物達がとるリアクションと、自分が予測していたリアクションに大きなギャップがあり、
これはどういうことなのかわからず、見ていてとても不安な気持ちになります。
つまりどういうことかの説明がつけばその不安が解消されるかもしれないので、
「このギャップには何か意味があるのではないか」と心の安定を求めて考え、深読みし、その結果、
これは何かの暗喩ではないか?
実は津波で全員が死んでいてこれは死後の世界ではないか?
作っている人の頭がどうかしたんじゃないのか?…などと、むしろ怖い考えに至ってしまいます。
しかし結局、映画の中では特に説明もなく、ハッピーエンドで惨事も何もなかったかのように終わり、
私は怖い考えを抱いて不安な気持ちのまま、劇場の外へ放り出されたのです。


ですが、宮崎駿のパンフレットの文章やインタビューなどを読むに、特に変な暗喩はふくませていないようなのです。
製作側と観客側のちょっとした感覚のずれが、根本的な問題なのかもしれません。
暗喩といえば「となりのトトロ」に関する都市伝説があります。
うがって見れば、ファンタジー作品からあのように元々ありもしない暗喩を抽出することも可能なわけですが、
しかし「崖の上のポニョ」については見かたの問題というよりも、やっぱり表現方法に問題があるような気がします。
結末まで踏まえたうえでもう一度見たら、また違う印象を受ける映画かもしれませんね。






「崖の上のポニョ」の中盤以降では、大津波で町が水没した世界が描かれているのですが、
この破滅的状況はとても美しく牧歌的に描かれていて、見ていて不安な気持ちになることは上に書きました。

では、なぜあえてそのように描かれているのかといえば、それはつまり、
宮崎駿が、水没した町に古代魚が遊弋する風景を、「美しく牧歌的な風景」だと考えている、ということでしょう。

昨日まで生活していた町が水没すればそれは災害現場ですが、
与那国島の海底遺跡のようにすでに水没している遺跡は、静寂と美しさに満ちたスポットになります。
災害であるということを頭から除けば、すでに水没した都市は、遺跡と同じように静寂で美しく、
しかも廃墟のような死と寂(さび)れを感じさせる、独特の魅力を持つ風景といえるでしょう。

ということで、今回はポニョに絡めて、実景を合成・加工して、水没都市をテーマにいろいろ作ってみました。
ポニョの劇中に出てくるデボン紀の古代生物のフィギュアは見つからなかったので、国立科学博物館で購入した
COLORATA社のエンデンジャード・スピーシーズ - フォッシルフィッシュボックス(古代魚セット)を使用しました。




こちらはもとの風景。
映画には都庁とか出てきませんが、今回は「水没都市」がテーマで、実はポニョとかどうでもいいので。<おい
右の水面はビッグサイト脇の波止場の水面です。
さかさまにして、水中から見た水面に加工しました。

使用フィギュアはベネリック株式会社の「ゆびにんぎょうセット」と「ぶらさげ(ストラップ)」です。
「いもうといっぱいセット」がキモかわいいです。






水没した学校の廊下のようなところ。
水自体が光を吸収するので、どんなに澄んだ水でも、ずっと向こうまで見通せるということはありません。

右端にポニョを合成してあるんですけど、むしろないほうがよかったかも。


こちらは加工前の廊下。
素材集の画像を使いました。









水没後、水上に出ている高台。
…と、いわれないとなんだか意味がわかりませんね、この画像。
海上の小島に鳥居や祠があることも実際ありますし。



実際はこうなっているわけですが、
こちらのほうが見慣れない風景かもしれません。
昔は山のてっぺんに祠があったのですが、
宅地造成にともなって山をどんどん削って、
法面工事した結果のようです。






これはかなり劇中のイメージに近い感じの画像。
ダイビング雑誌でありがちな、上下を界面で分割した構図です。
大きいのはピラルクのフィギュア。
小魚はこの間「サンシャイン国際水族館」で撮影してきた魚ですが、
動きが早い上に光量が足りなくて、被写体ブレしてほとんど素材として使えませんでした。



これは加工前の風景。
房総半島のどこかです。




これは本物のピラルク。
動かないし、これはこれで作り物みたいなやつでした。
動かない魚は撮りやすいです。






シーラカンスといもうとたち。
ポニョのいもうとたちは、無数にいるミニサイズのポニョなんですが、この子達がキモかわいいのです。
ポニョを覆う膜を開けようと、みんなで群がって歯のない口で膜を「もきゅもきゅ」とやるシーンは、
見ていてむずがゆくなってきました。お姉ちゃん大好きで健気でかわいいんですけど、きもい…。

小魚とエイはサンシャインで取ってきた実物です。



実景はこちら。
雪に埋もれた廃車と、高架下のあわせ技です。






アロワナの泳ぐ水没した近所。
メタルギアソリッド3で食いまくったっけ、アロワナ。
これとチョウザメと、上にいるやばそうなのがフィギュアです。
その他に泳いでいる魚は素材集の水中写真からのもの。

この画像は、水中の距離感がよく出たと思います。
というのも、


加工前の画像ですが、霧が出た日に撮影したもので、
遠くに行くほど霞がかっているので、青っぽくしてやると
そのまま自動的に水中のようになるのです。
特撮で水中シーンを撮るときに、スモークを炊くのと同じですね。

いろいろな場所のこういう写真があれば加工するのも楽なんですが、
霧はいつ出るかわからないので、偶然に頼るほかなく、
撮ろうと思ってもなかなか撮れないんですよね。



ということで、今回はフィギュアではなく、背景のほうを主体にして画像を作ってみました。
廃墟的な絵を、と思って作ったんですけど、副次的になんだか夏向きの涼しげな絵になった気がします。

2008年8月14日 3:45:37